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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)1798号 判決 2000年6月29日

反訴原告

岸慶治

反訴被告

株式会社トミヤ

ほか一名

主文

一  反訴原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金八八万一一四〇円及びこれに対する平成一〇年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交差点を自転車で横断中、右折してきた車両と接触して負傷した反訴原告が、車両運転者に対しては民法七〇九条により、車両の保有者に対しては民法七一五条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条本文により損害賠償を請求した事案である(なお、本件は、取り下げによって終了した平成一一年(ワ)第九三五号債務不存在確認請求事件の反訴である。)。

一  争いのない事実等(特に証拠を挙げた部分以外は当事者間に争いがない。)

(一)  反訴原告(以下、単に「原告」という。)は、平成一〇年一〇月六日午前八時五五分ころ、大阪市浪速区桜川三―二―一先の信号機の設置された十字路交差点(以下「本件交差点」という。)の北側自転車横断帯を東から西に向けて自転車で横断走行中、同交差点を東から北へ向けて右折してきた反訴被告市林康司(以下「被告市林」という。)運転の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)と接触・転倒する事故(以下「本件事故」という。)に遭った。原告は、本件事故により、左第七肋骨骨折、左肘関節擦過傷、左股打撲傷、左肩打撲傷、頸部捻挫の傷害を負った(甲第二号証、第五号証、乙第一号証、第二号証)。

(二)  反訴被告株式会社トミヤ(以下「被告会社」という。)は、本件事故当時、被告車両を所有し、かつ、被告市林の使用者の地位にあった者であり、また、本件事故は被告市林が被告会社の業務を執行中に発生した。

(三)  損害の填補

原告は、被告らから一五万九一五〇円(内訳は、治療費等として一〇万五六五〇円、損害賠償内金として五万円、自転車修理費用として三五〇〇円。)、自賠責保険から八万一三〇六円を各受領した。

二  争点

被告らは、本件事故は、原告が自己の対面信号が赤色表示であるにもかかわらず、自転車で本件交差点内に進入し、被告車両の直前に飛び出したことにより生じたもので、被告市林には自動車運転者としての注意義務に欠けるところはなく、かつ、本件事故当時、被告車両には、構造上の欠陥または機能の障害がなかったから、被告会社は自賠法三条但書により免責される(免責の抗弁)、仮に、被告市林に何らかの注意義務違反があったとしても、原告には上記の過失があったのであるから、大幅な過失相殺がなされるべきである(過失相殺の抗弁)と主張するほか、損害額についても争う。

第三争点に対する判断

一  本件事故態様及び被告らの責任原因について

甲第三号証、第四号証、乙第七号証の一ないし七、原告本人及び弁論の全趣旨によれば、本件交差点は、東西方向の道路が片側四車線ないし五車線、南北方向の道路が片側三車線ないし五車線の幅の広い道路が交差する交通量の多い交差点であり、各道路の交差点入口付近には、歩道橋が設置されているほか、道路上に白線二本で表示された自転車横断帯が設けられていること、被告市林は被告車両を運転して、本件交差点に東方向から進入する道路の最も中央分離帯よりの右折専用車線の停止線付近において、北方向へ向けて右折するために信号待ちをしていたところ、対面信号が右折可の青矢印信号に変わったことを確認し、同様に信号待ちをしていた先行車両数台に続いて右折するため進行したこと、本件交差点の中央付近で進行方向の左側方向を見ながらハンドルを右に切って右折進行したところ、同交差点の北側に設置された自転車横断帯上を東から西に向けて横断中の原告運転の自転車に衝突直前に至って初めて気付き、制動措置を講じたが間に合わず、自転車横断帯と北側に向かう道路の第二車線とが交差する付近において被告車両を原告運転の自転車に接触させ、自転車を転倒させた上、接触地点から約二七メートル進行して第一車線上に停止したこと、本件交差点中央付近から原告の通行していた自転車横断帯方向の見通しを妨げるものは存在しなかったことの各事実を認めることができる。

上記のとおり認定した事実によれば、被告市林は、本件交差点で右折する際、自動車運転者としては、交差点内において直進又は左折しようとする車両や自転車横断帯上を横断する自転車等の存在を注視し、そのような車両等が存する場合にはその進行を妨害してはならないという注意義務があるにもかかわらず、右方(進行方向前方)の十分な安全確認を怠って漫然と右折進行した過失が認められるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき義務があるというべきである。

また、前記「争いのない事実等」(二)記載の事実によれば、被告会社は、被告市林の使用者としての責任(民法七一五条)を負うほか、被告車両の運行供用者として本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

二  損害について

(一)  治療費(請求額一二万四六三六円) 一二万四六三六円

乙第三号証の一及び二、第四号証、第五号証の一ないし九、原告本人及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故の日である平成一〇年一〇月六日から平成一一年五月一七日までの間(通院実日数一二日間)、大野記念病院において本件事故によって被った傷害に対する治療を受け、右治療費及び薬剤費として合計金一二万四六三六円を支出したことが認められる。

(二)  休業損害(請求額五四万三四六〇円)一八万七四〇〇円

乙第六号証の一ないし三及び原告本人によると、原告は、本件事故前、百貨店の下請け会社のアルバイトとして梱包作業に従事し、事故前の三か月間の平均で月一八万七四〇〇円の収入を得ていたことが認められるものの、上記会社からは休業損害証明書の発行を受けることができなかったというのであり、原告主張の八七日間に及ぶ休業の事実を直接裏付ける証拠はないといわざるを得ない。

しかしながら、甲第二号証、第五号証、乙第一号証、第二号証、第三号証の一及び二、第四号証、原告本人によれば、原告は、本件事故で受傷した左第七肋骨骨折等による痛みがあり、当初、バストバンドの着用と鎮痛剤の投与を中心とする通院治療を受けていたこと、レントゲン検査の結果、原告の肺には必ずしも本件事故による外傷とは関係がないと思われる奇形が見受けられたこと、平成一〇年一一月一六日以降は肺炎及び肺結核の疑いが持たれその検査及び治療が中心となったこと、事故日から平成一一年五月一七日までの間、原告が通院した実日数は一二日間に過ぎないことの各事実が認められ、上記治療経過及び前記受傷内容に鑑みると、原告が本件事故で受傷したことによる治療及び痛みのため一定期間休業を余儀なくされたことが推認される一方、本件事故と相当因果関係を有する休業期間としてはおよそ一か月間程度と考えるのが相当であるから、前記一か月分の平均収入をもって本件事故による休業損害額と認める。

(三)  慰謝料(請求額三〇万円) 三〇万円

原告の受傷内容、治療経過その他本件に現れた一切の事情を斟酌すると、本件事故によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては金三〇万円が相当である。

(四)  物損(請求額三五〇〇円) 三五〇〇円

原告の自転車の修理費用が三五〇〇円であることは、原告と被告らとの間で争いがないものと認める。

以上損害額合計 六一万五五三六円

三  免責及び過失相殺の抗弁について

甲第三号証、第四号証、乙第七号証の一ないし七、原告本人及び弁論の全趣旨によると、原告は、日頃から仕事に通う際などに本件交差点を良く通行していたこと、本件事故当日も、仕事先に向かうため、本件交差点を東から西に向けて自転車で横断しようとして同交差点に差し掛かったところ、自転車横断帯に進入する直前に自己の対面の横断者用信号が青色から黄色表示に変わったのを確認し、横断を躊躇しながらも、特に急ぐこともなく普通の速度で横断を開始したこと、本件自転車横断帯は、対岸の歩道までの距離が約三六メートルあり、中央分離帯付近には島状の施設及び道路標示により安全地帯が設けられていること、原告は、自転車を運転したまま安全地帯を僅かに越えた辺りで対面信号を見たところ前記横断者用信号が赤色表示であるのを確認し、かつ、自己の進路前方を東側道路からの右折車両数台が横切っていくのを見たが、漫然と横断を続けた結果、本件事故に遭ったことが認められる。

以上の事実に鑑みると、原告は、対面信号が黄色表示であることを確認して本件交差点の横断を開始したが、道路中央の安全地帯付近に至った際には既に信号が赤色表示に変わっていることに気付いたのであるから、信号表示に従ってそれ以上の横断を直ちに中止し、安全地帯内に止まった上、信号が青色表示に変わるのを待って横断を再開すべきであったにもかかわらず、漫然と横断を続け北行き車線に進入した結果、本件事故に遭遇したものであり、本件事故の発生については原告にも重大な過失が認められるというべきである。

他方、被告市林に進行方向前方の十分な安全確認を怠って漫然と右折進行した過失が認められることは、前示のとおりであるから、被告らの免責の抗弁は到底採用することが出来ないが、双方の過失の内容を比較検討すれば、原告と被告市林との過失割合については、原告七割、被告市林三割と解するのが相当である。

したがって、原告の前記損害額から七割を減額すると、被告らが原告に対して賠償すべき損害額は、一八万四六六〇円となる。

(計算式)

六一五、五三六×(一-〇・七)=一八四、六六〇

四  損失の填補について

原告は、本件事故に対する損害の填補として、被告らから一五万九一五〇円、自賠責保険から八万一三〇六円の合計二四万〇四五六円をすでに受領していることは前示のとおり当事者間に争いがない。

五  結論

以上によれば、本件事故により原告の被った損害については既に全額填補されていることになり、弁護士費用の請求も相当でないから、結局、被告らに対する本訴請求は理由がないことに帰する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 福井健太)

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